せん妄に対するケアのポイント! せん妄をもたらす要因と看護の役割

せん妄は、入院患者の多くが発症するといわれています。特に高齢者や手術後はせん妄になるリスクが高いため、予防を含めた適切な看護ケアが必要です。最近ではせん妄に対する理解も深まってきました。しかし、認知症やうつ病と間違われることも多く、看護者としては対応が難しいのが現状です。この記事では、せん妄の原因や見極め方から看護やケアの方法まで、詳しく解説します。

  1. せん妄とは? 突然起こる一過性の意識障害
  2. せん妄はなぜ起こるのか?
  3. せん妄の看護方法
  4. せん妄ケアのポイント
  5. せん妄の看護ケアに関するよくある質問

この記事を読むことで、せん妄の看護に関する知識が深まり、予防やケアに役立ちます。看護の現場や家庭でお役立てください。

1.せん妄とは? 突然起こる一過性の意識障害

せん妄は、誰でも発症する可能性がある状態です。せん妄とはどういう状態なのか、ここでは、基礎的な知識を学びましょう。

1-1.入院患者に多く発症するせん妄

せん妄とは、意識・注意・認知・知覚が突然低下した意識障害の状態で、一過性のものを指します。これは、もともとあった病気や薬の影響、または入院や手術による環境の変化などにより引き起こされるものです。突然、意識が混濁した状態になり、つじつまが合わない言動や見当識障害が生じます。時には周囲に対する暴言や暴力が出ることもあり、治療や看護にも大きな影響を及ぼしているのが現状です。

1-2.せん妄の診断基準

せん妄の診断でよく用いられるのは、世界中で活用されている統計分類です。WHO(世界保健機構)が作成した国際疾病分類ICD-10のガイドラインによると、以下のすべての症状がある場合に「せん妄」の診断が確定されます。

  • 意識と注意の障害:意識混濁から昏睡(こんすい)まで、集中力・注意力の低下など
  • 認知の全体的な障害:錯覚および幻覚・妄想・短期記憶障害を伴う。時間や場所・人物に関する失見当識(しつけんとうしき)を示す場合もある
  • 精神運動性障害:寡動(かどう)あるいは多動、発語の増加あるいは減少、驚愕(きょうがく)反応の増大など
  • 睡眠-覚醒周期の障害:不眠・昼夜逆転・症状の夜間増悪(ぞうあく)など
  • 感情障害:抑うつ・不安・恐怖・焦燥・多幸・無感情・困惑など

このほかによく参照されるのが、米国精神医学会が作成するDSM-5です。いずれの場合も、発症は通常急激に起こり、経過は1日のうちでも変化があるとされています。

1-3.せん妄の種類と症状

せん妄には以下のような種類があります。

  • 過活動型せん妄:興奮して活動が過剰になるせん妄。大声を上げる、暴れる、幻覚が見える、妄想を抱く、話のつじつまが合わないなどの症状がある
  • 低活動型せん妄:無気力になり会話や活動が低下するせん妄。無表情・無気力になり、会話が減る、反応が乏しくなる、刺激をしないとすぐに寝てしまうなどの症状が現れる。うつ病と間違えないよう注意が必要
  • 混合型せん妄:過活動型と低活動型の症状が混在して現れるせん妄。昼間は低活動型で、夜になると過活動型の症状が現れることもある
  • 夜間せん妄:夕方から夜間にかけて症状が激しくなるせん妄。睡眠障害により夜間に興奮状態になり、不安感から暴れる、錯覚による徘徊(はいかい)などの行動が現れる
  • 術後せん妄:手術のあとに症状が現れるせん妄。傷の痛み・心理的なストレス・環境の変化・薬物の投与・体力の低下など、様々な要素が絡み合って起きる。症状は、通常1週間程度で落ち着くといわれるが、要因を取り除く努力は必要

1-4.せん妄と認知症との違い

せん妄は急激に症状が現れて一過性である点が、認知症との大きな違いです。せん妄と認知症は、記憶障害や見当識障害(けんとうしきしょうがい 自分が置かれている状況がわからなくなること)など似たような症状が現れます。そのため、せん妄は認知症と間違えやすく、特に高齢者の場合は注意が必要です。以下に両者の特徴をまとめたので、参考にしてください。

【せん妄】

  • 発症した日が明確
  • 急激に症状が出る
  • 症状は一過性(短期間で回復)
  • 1日のうちで症状が変化する
  • 意識障害が見られる

【認知症】

  • 発症時期があいまい
  • 急激な症状の変化はない
  • 症状は慢性持続的(月~年単位)
  • 1日のうちで症状の変動は少ない
  • 意識はハッキリしていることが多い

2.せん妄はなぜ起こるのか?

せん妄はたくさんの要因が絡み合って起きます。ここでは、せん妄を引き起こす原因について詳しく見ていきましょう。

2-1.せん妄には多くの要因がある

せん妄は入院中に起こることが多いといわれています。なぜなら、入院や手術に伴う急激な環境の変化やストレスなど、せん妄を引き起こす多くの要因(下表)が同時に生じるからです。また、脳疾患や脱水・感染症などの病気や薬が原因となることもあるため、高齢者はせん妄になるリスクが高いといえます。せん妄を引き起こす因子は、以下の3つです。

2-1-1.準備因子:せん妄を引き起こす脳の弱さが現れたもの

  • 中枢神経疾患(脳血管障害・頭部外傷など)
  • 慢性の脳疾患(認知症など)
  • 加齢

2-1-2.誘発因子:せん妄を起こす引き金となるもの

  • 入院による環境変化・心理的ストレス(不安・緊張・孤独感など)
  • 睡眠障害(昼夜逆転・不眠)
  • 身体症状(脱水・感染・電解質異常・低酸素症・心不全・呼吸不全など)
  • 感覚遮断・感覚過剰

2-1-3.直接因子:単一でも意識障害を起こし得るもの

  • 薬剤(睡眠薬・抗不安薬・総合感冒薬・消化性潰瘍治療薬など)
  • アルコールなどからの離脱

3.せん妄の看護方法

入院患者に対するせん妄の看護について解説します。

3-1.せん妄の看護目的

せん妄の看護の目的は、せん妄の予防に努め、せん妄発症時には改善に向けて介入することです。
発症後の短期目標としては、現実と非現実の区別ができること、夜間に持続した睡眠を取ることができ、昼間の活動がスムーズに行えることを目指しましょう。

3-2.せん妄の予防に必要なのは観察

せん妄の予防のために、患者のせん妄リスクをアセスメントしておくことが大切です。そのうえで、患者をよく観察し、発症時には対応を検討しておきましょう。せん妄が発症した際にも、患者の言動をよく観察することで、要因の特定に努めます。そうすることで、症状を引き起こしている要因を排除・緩和することにつながるのです。

3-3.身体疾患の症状緩和看護、ケアの方法

せん妄の看護には体調管理の徹底が重要になります。なぜなら、脱水や感染などの身体状態がせん妄の誘発因子となるからです。特に高齢者においては、発熱や下痢で脱水を起こしやすくなります。ほかには、貧血や低栄養状態でもせん妄を起こすことがあるので注意が必要です。

3-4.環境調整

2-1で説明したとおり、環境変化や心理ストレスが誘因となってせん妄を発症することがあります。そのため、安心できる環境を作ることが大切です。なるべく患者本人の希望に添うように配慮しましょう。状況に合わせ、以下の例を参考にしてください。

  • 愛用品や馴染(なじ)みのあるものを目のつくところに置く
  • 目につくところに時計やカレンダーを置き、見当識を整える
  • 家族やペットの写真を飾る
  • 眼鏡・補聴器・義歯など普段使用していたものを使用する
  • アラーム音や足音、ドアの開閉音など不快な騒音を減らす
  • 家族や友人の面会を増やしてもらう
  • 同じ病室で入院生活を送れるよう転室を極力避ける
  • 消灯後の豆電球など、照明を好みの明るさに調節する
  • 担当看護師はなるべく変えず、馴染みの関係を構築する

3-5.生活リズム・睡眠リズムの調整

昼夜逆転の予防のために、早期離床をすすめ、生活のリズムを整えていきます。日中は声かけの回数を増やすなどして、覚醒を促しましょう。眠りやすい環境を整えるために愛用の枕を使うことも有効です。

3-6.薬剤の調整

2-1で解説したように、薬剤はせん妄を引き起こす要因の一つです。そのため、せん妄を発症したら、まずは、使用薬剤の中止を検討します。治療上どうしても中止できない場合は、せん妄の発症率の低い同種の薬剤に切り替えるなど対策を取る必要があるでしょう。

4.せん妄ケアのポイント

せん妄をケアするためのポイントをまとめました。

4-1.安全、安心を保つケア

せん妄発生時には、患者は自分が何をやっているのか意識できません。点滴ルートを自分で抜いてしまうこともあり、転倒・転落などの事故の危険性も高まります。こうしたトラブルを未然に防ぎ、安全を確保するために、以下に挙げるポイントを押さえておきましょう。

  • 点滴ルート・点滴時間の工夫:点滴台が視界に入らないようにする。せん妄が発生しない時間帯に行う
  • 障害物や危険物の除去:ベッド周りに余分なものを置かない、ナイフ・ハサミなど鋭利なものを置かない
  • 離床センサーの設置:徘徊時の早期対応や転倒防止に有効

4-2.環境調整のポイント

入院中の患者が何を感じ、どんな体験をしているかに焦点を当てて環境を考えることがポイントです。病棟という自宅と大きく異なる環境を少しでも心地よくするために、患者が不快に感じるものがないか状況を分析します。また、夜寝るときの照明や日中の過ごし方など、本人や家族に情報を得ながら調整するといいでしょう。前述したように、普段使用している眼鏡や補聴器を継続して使うことで誤認を防ぐ効果もあります。

4-3.コミュニケーションの取り方

せん妄患者には安心感を与えることが大切です。そのために、やさしい表情で接すること、低めの声で明瞭にゆっくりと話すことを心がけましょう。反対に、高圧的な態度や厳しい口調は避けるべきです。また、患者がどうしたいのかを理解し、できる限り欲求を満たしてあげることで、信頼関係を築くことができます。

4-4.在宅ケアへの助言

せん妄は、発症の要因を取り除けば、症状の改善が見込めます。たとえば、誘発因子となっていた病気が治療により改善されたり、退院して自宅へ帰ったりすることで、発症前の状態に戻ることがほとんどです。
しかし、身体状態が発症の引き金となることから、退院後に再燃する可能性もあります。そのため、在宅ケアではせん妄の予防が大切なのです。本人および家族には、体調を整えることがせん妄の発症を予防することを伝えます。たとえば、脱水症状を防ぐためにこまめな水分摂取の方法を伝えるなど、自宅での生活状況を踏まえた指導をしましょう。

4-5.チームでの連携

看護はせん妄を緩和するのに役立ちますが、看護の力だけで改善するわけではありません。医師や薬剤師、家族など、患者を中心としたチームの一員として、周囲との連携を取って対応しましょう。

5.せん妄の看護ケアに関するよくある質問

せん妄の予防やケアをするときに感じる疑問と回答をまとめました。

Q.ICU病棟では、かなり高い確率で術後せん妄になる患者がいます。どのようにかかわればいいでしょう?
A.患者の不安やストレスを和らげるために、やさしい表情を心がけ、落ち着いて接することが大切です。低めのハッキリした声で話しかけるといいでしょう。

Q.せん妄の患者に、「手を握る」「背中をさする」などのタッチングは有効ですか?
A.看護者によるタッチングは、患者を安心させるといわれています。しかし、せん妄患者は、相手が誰かわからない状態もあるため、不用意に刺激することがないよう気を配る必要があるでしょう。

Q.認知症の患者がせん妄を起こしているか見分けるにはどうしたらいいですか?
A.せん妄は急激に発症します。いつもと様子が違う、一日の中で症状に変化がある、特定の時間や状況で起こるなど、せん妄の特徴を踏まえて観察しましょう。せん妄アセスメントシートを使うと分析に役立ちます。

Q.せん妄患者には刺激を与えない方がいいのでしょうか?
A.せん妄状態が出現して、不安や妄想に苦しむ患者をむやみに刺激することは避けるべきです。しかし、症状が落ち着いているときには、適度に刺激することは有効でしょう。昼夜逆転を避けるために、日中はまめに声かけをし、穏やかに過ごせるよう見守りが必要です。

Q.患者はせん妄状態になったことを覚えているのでしょうか?
A.せん妄は意識障害を伴うので、本人は何も覚えていないのではと思われることが多いものです。しかし、実際には、恥ずかしい姿を見せたことや、恐怖心や焦燥感を覚えているケースもあります。このような場合には、治ったあとのケアも大切になるでしょう。

まとめ

せん妄は一過性の病気とはいえ、発症率も10~30%と高く(米国精神医学会せん妄ガイドライン)、見過ごすことのできないものです。発症リスクの高い高齢者が多い現状では、より一層看護によるケアが重要になるでしょう。せん妄患者の看護は大変ですが、正しい知識と患者の心情への理解をもって看護に臨んでください。